核融合炉の燃料は、水素の同位体である重水素(Deuterium:デューテリウム)と三重水素(Tritium:トリチウム)です.重水素は海水中に豊富に存在しますが、三重水素は天然にはほとんど存在しません.そこで、核融合反応で生じる中性子とリチウムとの核変換反応により、三重水素燃料を生産するシステムを構築します. 6Li(リチウム)+n(中性子) → 4He(ヘリウム)+3H(三重水素)+4.78 MeV 7Li(リチウム)+n(中性子) → 4He(ヘリウム)+3H(三重水素)+n'(中性子)-2.47 MeV 1回の核融合反応で1個の三重水素が燃焼し、1個の中性子が発生します。発生した中性子がリチウムと反応すれば、1個の三重水素が生産されます.つまり、理想的には、核融合反応で消費された量と同じ量の三重水素が生産されるため、消費されていくのは、海水に豊富に存在する重水素とリチウムになるのです. しかし、現実はそう甘くありません.発生した中性子は核融合炉の壁材料やブランケットの構造材料とも反応し、すべてがリチウムと反応してくれません.そもそも、プラズマを取り囲む壁には、燃料入射用のポートやプラズマ加熱用のポートがあり、発生した中性子を全て受け止めるだけのリチウムを、プラズマの周辺に配置することができません.このことは、消費された三重水素量よりも、生産される三重水素量が少なくなることを意味します.そこで、核融合研究者は考えました.中性子を増やす元素をリチウムと一緒に配置すれば、三重水素の生産性を高めることができるだろうと.ベリリウムや鉛といった元素は、1つの中性子と反応すると2つの中性子を発生します.そのため、中性子増倍材と呼ばれます.中性子増倍材を混合することで、下図のように、消費した三重水素よりも多くの三重水素を生産することができるため、、生産された三重水素を”増殖トリチウム”とも呼びます.リチウムや中性子増倍材を充填する機器を“ブランケット”と呼んでいます.特に、リチウムを充填する部分を増殖ブランケットと呼んでいます. |
プラズマを取り囲むように真空容器内側に可能な限り設置する炉内機器を”ブランケット”と呼んでいます.ブランケットは、工学的には最も重要な機器で、核融合エネルギーを取り出す要となります.核融合中性子は、炉心プラズマからブランケットに飛来し、リチウムや構造材構成元素などと反応しながらエネルギーを失います.そのエネルギーが熱となり、ブランケットは高温となります.この熱を回収するため、ブランケット内には冷却材を流動させる冷却管が多数配置されます.ブランケットの一番外側には、遮蔽材が配置され、放射線による外部への影響を防ぐ役割も担います.ブランケットの外側には、真空容器や超電導コイル等重要な機器が配置されるため、これらを強い放射線から守ることも重要なのです.遮蔽機能を持った部分を“遮蔽ブランケット”と呼んでいます. | |
ブランケットは、三重水素を生産し熱を回収する役割を担うため、リチウムと冷却材が必須となります.リチウムの融点は180℃程度のため、比較的容易に液化し、反応性が高いため、冷却管構造材料と反応してしまいます.そこで、化学的に安定な化合物の形で使用します.固体酸化物であるLi2TiO3、Li4SiO4、LiAlO2、Li2ZrO3等を微小球として充填する場合、固体ブランケットと呼んでいます.また、高温融体であるFLiNaBe、FliBe、LiPb、Li等を液体として用いる場合を液体ブランケットと呼んでいます.固体や液体のリチウム化合物を冷却管が多数配置されたモジュールに充填する場合、核融合炉の稼働時間に伴って、徐々にリチウムが減少するため、定期的な交換・再充填が必要となります.強く放射化したモジュールの交換は、遠隔操作で行われます.一方、リチウム化合物をモジュール内に流通させる場合、三重水素と熱を同時に回収することができ、必要に応じてリチウムを添加したり、不純物を除去したりすることが可能となります. | |
|