九州大学大学院総合理工学府・先端エネルギー理工学専攻
先端エネルギーシステム開発学講座・エネルギー化学工学教育分野
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片山研はエネルギー化学工学分野の教育と研究を行う九大のまじめな研究室です.
九州大学大学院総合理工学府・総合理工学専攻
プラズマ・量子理工学メジャー・エネルギー化学工学教育分野

増殖トリチウム研究


燃料三重水素の生産
 核融合炉の燃料は、水素の同位体である重水素(Deuterium:デューテリウム)と三重水素(Tritium:トリチウム)です.重水素は海水中に豊富に存在しますが、三重水素は天然にはほとんど存在しません.そこで、核融合反応で生じる中性子とリチウムとの核変換反応により、三重水素燃料を生産するシステムを構築します.

6Li(リチウム)+n(中性子) → 4He(ヘリウム)+3H(三重水素)+4.78 MeV
7Li(リチウム)+n(中性子) → 4He(ヘリウム)+3H(三重水素)+n'(中性子)-2.47 MeV

1回の核融合反応で1個の三重水素が燃焼し、1個の中性子が発生します。発生した中性子がリチウムと反応すれば、1個の三重水素が生産されます.つまり、理想的には、核融合反応で消費された量と同じ量の三重水素が生産されるため、消費されていくのは、海水に豊富に存在する重水素とリチウムになるのです.
 しかし、現実はそう甘くありません.発生した中性子は核融合炉の壁材料やブランケットの構造材料とも反応し、すべてがリチウムと反応してくれません.そもそも、プラズマを取り囲む壁には、燃料入射用のポートやプラズマ加熱用のポートがあり、発生した中性子を全て受け止めるだけのリチウムを、プラズマの周辺に配置することができません.このことは、消費された三重水素量よりも、生産される三重水素量が少なくなることを意味します.そこで、核融合研究者は考えました.中性子を増やす元素をリチウムと一緒に配置すれば、三重水素の生産性を高めることができるだろうと.ベリリウムや鉛といった元素は、1つの中性子と反応すると2つの中性子を発生します.そのため、中性子増倍材と呼ばれます.中性子増倍材を混合することで、下図のように、消費した三重水素よりも多くの三重水素を生産することができるため、、生産された三重水素を”増殖トリチウム”とも呼びます.リチウムや中性子増倍材を充填する機器を“ブランケット”と呼んでいます.特に、リチウムを充填する部分を増殖ブランケットと呼んでいます.


ブランケットの役割
 プラズマを取り囲むように真空容器内側に可能な限り設置する炉内機器を”ブランケット”と呼んでいます.ブランケットは、工学的には最も重要な機器で、核融合エネルギーを取り出す要となります.核融合中性子は、炉心プラズマからブランケットに飛来し、リチウムや構造材構成元素などと反応しながらエネルギーを失います.そのエネルギーが熱となり、ブランケットは高温となります.この熱を回収するため、ブランケット内には冷却材を流動させる冷却管が多数配置されます.ブランケットの一番外側には、遮蔽材が配置され、放射線による外部への影響を防ぐ役割も担います.ブランケットの外側には、真空容器や超電導コイル等重要な機器が配置されるため、これらを強い放射線から守ることも重要なのです.遮蔽機能を持った部分を“遮蔽ブランケット”と呼んでいます.
 

固体ブランケットと液体ブランケット
ブランケットは、三重水素を生産し熱を回収する役割を担うため、リチウムと冷却材が必須となります.リチウムの融点は180℃程度のため、比較的容易に液化し、反応性が高いため、冷却管構造材料と反応してしまいます.そこで、化学的に安定な化合物の形で使用します.固体酸化物であるLi2TiO3、Li4SiO4、LiAlO2、Li2ZrO3等を微小球として充填する場合、固体ブランケットと呼んでいます.また、高温融体であるFLiNaBe、FliBe、LiPb、Li等を液体として用いる場合を液体ブランケットと呼んでいます.固体や液体のリチウム化合物を冷却管が多数配置されたモジュールに充填する場合、核融合炉の稼働時間に伴って、徐々にリチウムが減少するため、定期的な交換・再充填が必要となります.強く放射化したモジュールの交換は、遠隔操作で行われます.一方、リチウム化合物をモジュール内に流通させる場合、三重水素と熱を同時に回収することができ、必要に応じてリチウムを添加したり、不純物を除去したりすることが可能となります.


増殖三重水素の放出挙動の理解とそのモデル化
 研究室では、固体及び液体のリチウム化合物からの三重水素放出挙動を観測し、化学工学的視点からそのモデル化を行っています.最終的には、数値シミュレーションに集約し、核融合炉条件において生産された三重水素がどのように放出されるかを予測することを目的としています.この研究は、増殖三重水素の回収系の設計や、透過漏洩による三重水素の損失量の見積もりなどに必須です.ミクロな挙動を理解して、マクロな設計に繋げる研究をしているのです.燃料サイクルの成立性に関わる極めて重要な研究です.
 固体のリチウム化合物は、下図下の写真のように直径数mmの微小球に加工・焼結されて使用します.三重水素の放出を促進するため多数の空隙を有する多孔質体です.結晶粒子内で生成した三重水素は、粒内拡散、表面反応、細孔内拡散等を経て、気相に放出されます.放出された三重水素は、パージガスの流れに乗って回収システムへ輸送されます.

左)QSTが開発した増殖材微小球    右)微小球内での三重水素移行挙動
 この研究は、量子科学研究開発機構(QST)との共同研究として実施しています.QSTが開発した最新の微小球からのトリチウム(三重水素)放出特性を明らかにすることを目的としています.固体増殖材表面での反応を調べるために、微小球トリチウムガス(三重水素ガス)を流通させ、同位体交換反応速度や同位体交換容量など重要な物質移動パラメータを調べています.また、京都大学の京都大学研究用原子炉で中性子照射を行い、リチウム化合物内で発生したトリチウムがどのように放出されるかを調べています.トリチウム実験や中性子照射実験で得られた知見を統合して、トリチウム放出モデルの構築を進めています.
  左)トリチウム実験中の大学院生 右)中性子照射Li2TiO3からのトリチウム放出例
 液体のリチウム化合物としては、リチウム鉛(LiPb)やフリーべ(FLiBe)、フリナーベ(FLiNaBe)、液体リチウムを試料として、これまでに多くの基礎実験を通じて水素同位体の挙動特性を調べてきました.水素や重水素を用いた溶解度測定や透過速度、拡散速度などを定量し、ブランケットシステムで用いた場合のトリチウム回収システムの提案や、輸送配管からの透過漏洩量を評価しています.また、FLiNaBeや模擬流体のFLiNakに対して、京都大学研究用原子炉で中性子照射を行い、トリチウム放出特性も調べています.例えば、FLiNaBeからは、トリチウムが水素状(T2)やフッ化水素状(TF)、水蒸気状(T2O)で放出されることから、回収システムの設計にあたっては、これらの化学形比率の評価が必須となります.溶融塩(FLibeやFLiNaBe、FLiNaK)は、粉末状のフッ化物から生成します.水分を取り込む性質があるため、作業は不活性ガス雰囲気のグローブボックス内で行います.
 日本の原型炉設計(JA-DEMO)では、固体増殖材が用いられることになっていますが、ヘリカル型核融合炉では、自己冷却トリチウム増殖材として溶融塩(FLiNaBe)が想定されており、設計に必要なデータを取得する必要があります.また、レーザー核融合炉では、リチウム鉛(LiPb)が想定されており、高温での熱利用なども期待されています.

左)米国アイダホ国立研究所での実験で用いたLiPb 右)溶融塩取扱い中の大学院生
  
左)リチウム流動実験準備中の大学院生 右)トリチウム実験室(動画あり)


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