九州大学大学院総合理工学府・先端エネルギー理工学専攻
先端エネルギーシステム開発学講座・エネルギー化学工学教育分野
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片山研はエネルギー化学工学分野の教育と研究を行う九大のまじめな研究室です.
九州大学大学院総合理工学府 総合理工学専攻専攻 II類
プラズマ・量子理工学メジャー エネルギー化学工学教育分野

環境保全・安全研究


環境保全・安全性に関する研究
 私たちが安心して暮らせるのは、安全な生活環境があればこそです.科学技術の発展に伴い便利で快適な生活が送れていますが、実はリスクと隣り合わせかもしれません.安全だと思っていた原子力発電所が、地震後の津波により大変な事故を起こしました.研究室のスタッフも幾度か福島に足を運び、避難区域の住民の方々が一時帰宅された際のスクリーニング作業をサポートさせていただきました.作業の合間に持参した放射線検出器で測定を行うと、公園の樹木の片側(風上側だったと思われる)や、枯葉の集まる側溝、パトカーのタイヤなどに比較的高い線量が検出されたことを思い出します.現在、多くの研究者が放出されたセシウム等の放射性物質が環境中でどのように移行するのか研究を進めています.
 片山研究室では、物質移動工学や分離工学、放射線工学のノウハウを活かして、安全に関わる研究に取り組んでいます.


放射性物質の土壌中挙動
 放射性物質は、私たちの身の回りに自然に存在し、体内にも存在しています.どれくらい放射線を受けるとどのような影響が現れるか、国際的な取り組みとして研究が長く続けられており、その最新の成果に基づいて、放射線や放射性物質の安全取扱いについて常に更新されています.放射線や放射性物質のメリットとデメリットについて、正しい知識に基づいて判断し、うまく利用していくことが将来の人類の存続にもつながっていくと考えます.宇宙空間は常に放射線にさらされますし、放射線の医療応用によって救われる命もあります.
 原子力の平和利用が始まってから随分時が経ち、より安全性の高い原子炉の建設に向けた動きが活発化しています.既存の原子炉、新しい原子炉においても、大量の放射性物質を取扱うことに変わりはありません.万が一の事故によって、放射性物質が環境に放出された場合、その後どのように拡散移行していくのか、理解しておくことは重要であり、その知見に基づいて、防護策を準備しておく必要があります.
 私たちは、放射性物質である三重水素(トリチウム)に注目し、その環境中での移行挙動を理解し、万が一の漏洩の際にどのように拡散移行していくのかをシミュレートすることを目指しています.トリチウムは、水素の放射性同位体で低エネルギーのベータ線を放出します.半減期は12.3年です.トリチウムは、ウランの三体核分裂、ボロンやリチウムの核反応により原子炉内で発生し、その一部が冷却水中に存在することが知られています.当研究室では、万が一トリチウムを含む水が土壌に流出した際にどのように拡散移行するのか、あらかじめ予測する技術の開発を目指しています.さらには、この開発過程で得られるトリチウム基礎移動現象の理解に基づき、土壌中でのトリチウムの拡散を抑制する手法の開発も視野に入れています. これまでに、実際のトリチウムを使った土壌充填層へのトリチウム水透水実験などを実施し、有用なデータの集積を進めています.次世代エネルギー源と期待される核融合炉が社会に受け入れられるには、環境中でのトリチウム挙動を理解し、公衆に正しく説明することは、欠かせないプロセスと考えます.
 

天然土壌採取とトリチウム水の透水実験
 環境中トリチウム挙動の研究対象として、まずは天然土壌におけるトリチウム挙動に注目しました.環境トリチウム研究は、日本で核融合研究がスタートした当初から重要な研究課題として取り組まれ、トリチウム移行モデルやシミュレーションコードも開発されています.基本的には、待機と土壌表層の移行挙動が主体となっており、土壌にトリチウム水が浸透していく場合については、十分な検討がされていません.トリチウム水はトリチウムを含む水ですので、水の挙動=トリチウム水の挙動と仮定してシミュレートされているのが現状です.本当にそうなのでしょうか.九州大学キャンパス内の天然土壌を採取することから研究を始めました.

左)グラウンドの土壌を採取する様子   右)林の中の土壌を採取する様子
 
左)九大キャンパス各所から採取した土壌 右)ピクノメーターでの密度測定
 採取した資料土壌をカラムに充填し、上部からトリチウムを供給して下部から流出する水のトリチウム濃度を測定しました.濃度測定には、液体シンチレーションカウンターを用いました.中央の小さくて見ずらいですが、中央のグラフに測定結果を示します.青色のシンボルは流出した水量を示し、赤色のシンボルはトリチウム濃度を示します.水が流出し始めた際のトリチウム濃度は、入口濃度よりもかなり低く、トリチウムの一部が土壌に捕捉されたことを示します.土壌はもともと保水力がありますので、供給したトリチウム水の一部は土壌に滞留しますが、この場合、流出水中のトリチウム濃度は、供給水のトリチウム濃度と同じになります.つまり、トリチウムが選択的に土壌に捕獲された、もしくは、土壌の軽水素(H)と供給水のトリチウム(T)が同位体交換同位体交換して捕獲されたことになります.土壌には多くの軽水素が存在するため、同位体交換による捕捉と考えています.本研究により、水の挙動=トリチウム水の挙動ではなく、トリチウムが土壌に捕捉されながら水が移行していくことを明らかにすることができました.中央グラフの曲線は、充填層内の物質収支式を数値的に解き、物質移動係数(同位体交換反応速度定数)をフィッティングパラメータとして実験結果と計算結果を比較したものです.これにより、トリチウム水と土壌との総括的な物質移動係数も定量しました.
 さらに研究を進め、土壌に捕捉されたトリチウムの回収法について実験しました.土壌に捕捉されたトリチウムの多くは、1000℃の加熱により土壌からの水蒸気の放出とともに放出されますが、一部は放出されず、酸を用いた完全溶解が必要であることも明らかにしました.
 

土壌から植物へのトリチウム移行
 土壌に浸透したトリチウム水は、植物に移行する可能性があります.そこで、土壌から植物へのトリチウム移行研究を始めています.過去の関連研究の多くは、重水で実施されていますが、当研究室ではこれまでのトリチウム取扱ノウハウを援用して、トリチウム水を用いた実験を実施しました.現在では、分析自由度の高い重水を使った実験にも取り組もうとしています.下図左は、トリチウムが外部に漏洩しないよう気密性グローブボックス内で試料植物を育成するための準備をしているところです.下図右は、試料植物としてよく利用され、ゲノム解析も完了しているシロイヌナズナを育成している様子です.土壌にトリチウム水を滴下したところ、シロイヌナズナ内にもトリチウムが安定的に取りこまれていることがわかりました.植物中に取り込まれたトリチウムは、大きく分けて自由組織水型トリチウム(TFWT)と有機結合型トリチウム(OBT)に分類されます.植物中に安定的に長く存在するOBTの定量が重要となります.シロイヌナズナに捕捉されていたトリチウムのうち、2.5~9.0%が水と容易には同位体交換しない、非同位体交換型のOBTであることがわかりました.

左)気密性植物育成装置を準備する大学院生 右)育成中のシロイヌナズナ
 原子力施設や核融合炉から万が一周辺土壌へトリチウム水が漏洩した場合、河川や湖沼、海洋に移行する可能性があります.そこでまず、淡水から水草に移行するトリチウムの挙動を明らかにするため、トリチウム水中でオオカナダモを育成する実験を始めました.下図左は、通常の淡水で育成試験中の様子です.下図右は、トリチウム水中で育成したオオカナダモを、燃焼処理した際に石英反応管に付着した煤(すす)です.イメージングプレート法でトリチウム量を評価したところ、煤が付着した部分は濃い赤色を示し、トリチウムが比較的高濃度に存在することを示しています.詳しい研究成果については今後は、発表していく予定です.
 
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